DSCの基礎

 

DSC (Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)はサンプルの温度変化に応じてどのような熱的挙動を示すかを検出する測定法。
以下の記述はあくまでも簡単に概要を示したものであるので、詳細はJIS規格K-7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」、十時稔「高分子のDSCとTMA」熱測定 2005, 31, 241-248などを読むとよい(これらの資料は2013年11月1日現在インターネットで無料で読むことができる)。
主な熱挙動には、発熱、吸熱と比熱の変化がある。発熱や吸熱が起きただけならば、ベースラインの変化は起きない。これに対して、比熱の変化が起こる とベースラインの変化が起きる。まずは以下に理論抜きに実例から示す。

 

ポリ乳酸のDSCサーモグラム (昇温速度:10℃/min、窒素雰囲気下、サンプル量:3.90mg)

ポリ乳酸は結晶性の良いポリマーであり、そのDSCサーモグラムにはポリマーに典型的な熱挙動が一通り見られる。以下にそれぞれどのような熱挙動であるかとともに示す。


ここで、最も重要なのがガラス転移と融解である。まずはそれぞれの取り方を述べる。

 

ガラス転移点の取り方

ガラス転移によってベースラインが下にシフトする。

一般には以下のように元のベースラインと変曲点(上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点)での接線の交点もしくは変位の中点をガラス転移点(Tg)とする。JIS規格では昇温速度として10℃/minが推奨されているが、ある程度昇温が速いほうが見やすくなる。また、ガラス転移点を見やすくするためには一度融解させたサンプルを急冷するのも一つの手である。これは、次ページにて詳細に書くとおり、ガラス転移は非晶部の転移なので、非晶部を増やすことによってガラス転移する成分が増えるためである。ただし、熱履歴が変わればサンプルの性質も変わるので、熱履歴は慎重に選択しなければいけない。筆者はガラス転移点に判断に自信がないときには、通常の10℃/minのサイクルで測定を行った後に、昇温後に徐冷するサイクルと昇温後に急冷するサイクルを加えて参考にすることがある(これはあくまでも参考にするための測定であって、この際のデータを採用してはいけない)。

ガラス転移点を取るときに、ベースラインのシフトなどから判断に迷った場合はDDSCを見るとよい(詳細はDSC の基礎3にて)。

 

融点の取り方

融点では吸熱ピークが観測され、厳密にはベースラインのシフトは起きない(実際にはよく動いたりするが・・・)。一般にはピークトップを融点(Tm)とするが(厳密には融解ピーク温度、Tpm)、ガラス転移点のように融解開始側でベースラインと変曲点の接線の交点を取ることもある(補外融解開始温度、Tim)。融点は融解さ せた後に徐冷して、十分に結晶化させたものを測定すると、分かりやすくなる。また、測定時の昇温速度は遅いほうが一般的に見やすくなる。熱履歴に関する注意はガラス転移と同様。ちなみに上の図の場合は、DDSCを見る限り結晶形は1種ではない。

 

ガラス転移温度と融解温度の関係

ガラス転移は非晶部に関わる現象、融解は結晶部に関わる現象で両者は全く別物だが、経験則として以下の式がある。

Tg/Tm = 2/3  温度の単位はK(ケルビン)

これはかならず2/3になると言うことではなく、「最も一般的」というもの。

多くの高分子では、0.56から0.76の間に入っており、分子の対称性が高い場合には小さく、分子の対称性が低い場合には大きくなる。これは分子の対称性が高い場合には結晶が安定になるために融点が高くなるためである。

 

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