数平均分子量と重量平均分子量の考え方
合成の人になじみ深い数平均分子量と、物性の人になじみ深い重量平均分子量。それぞれ、実際にどうやって求まるのか?などを簡単に数値を入れながら考えてみます。(それぞれの平均分子量の正確な表現は手元にある講談社サイエンティフィックのエッセンシャル高分子(第4刷)のものが最後に書いてあります。)
まず、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の定義は簡単に書くならば、Mnが単純な分子1本あたりの分子量の平均、Mwが高分子量のものを重視するようにした平均分子量です。Mnは単なる平均なので、あまり深く考えなくても良いのですが、Mwはあまり普段こういう平均を取らないので感じをつかめない人も多いでしょう。
合成系の人がMnを気にするのは、多くの場合「ある量(X)のモノマーとある量(Y)の開始剤を加えた重合に、平均すると一本あたりのポリマー鎖はどれくらいのモノマー単位からできるのだろう?」という反応に対する興味があるからと言えます。たとえば、X=100、Y=1なら平均的には100量体ができるはずですが、実際にはどちらかが完全には消費されなかったり、同時性が低かったりして、このとおりになることは限られたケース(リビング重合など)のみです。
物性は一般にMnよりもMwに依存します。例えばガラス転移点などは普通Mwと温度の関係を取ったりします。では、なぜ高分子量体を重視したMwを使う必要があるのでしょうか?
そこで、それぞれの求め方と意味を実際に単純化した数値を使って考えて見ましょう。
まず、以下の図のような分子量の分布をもつポリマーの集まりについて考えます。
分子量 10000 が3本
分子量 5000 が10本
分子量 1000 が10本
このポリマーの集まりのGPCをとると下の図のようになるはずです。
それぞれ一つの枠が1本のポリマー
このポリマーの集まりのMnは以下の式で表すことができます。
Mn=[10000 x 3(本) + 5000 x 10 (本) + 1000 x 10 (本)] / [3 + 10 + 10 (本)]
=90000 / 23
=3913
また、このときのMwは以下の式で表されます。
Mw=[10000 x 10000 x 3(本) + 5000 x 5000 x 10 (本) + 1000 x 1000 x 10 (本)] /
[10000 x 3(本) + 5000 x 10 (本) + 1000 x 10 (本)]
=[300000000 + 250000000 + 10000000] / 90000
=560000000 / 90000
=6222
ぱっと見で一番多い5000よりもちょっと小さいMnとちょっと大きいMwという結果になりました。ちなみにこの場合のMw/Mnは1.59です。全体の感じから見て、一番面積を占めているのが5000で、次に面積を占めているのが10000なのに、平均分子量が5000以下になるのはちょっと違和感を感じる人もいるかもしれません。
では、もう少し極端な場合を考えて見ましょう。
分子量 10000 が3本
分子量 5000 が10本
分子量 1000 が10本
分子量 100 が10本
これは先ほどの例に分子量100がさらに10本ある場合です。このときの予想されるGPCプロファイルは以下のとおりです。
分子量100は真っ黒になってしまいましたが10本います。
ぱっと見の印象は最初のもののGPCとあまり変わらないのではないでしょうか?このポリマーの集まりのMnは以下の式で表すことができます。
Mn=[10000 x 3(本) + 5000 x 10 (本) + 1000 x 10 (本) + 100 x 10 (本)] / [3 + 10
+ 10 + 10 (本)]
=91000 / 43
=2116
また、このときのMwは以下の式で表されます。
Mw=[10000 x 10000 x 3(本) + 5000 x 5000 x 10 (本) + 1000 x 1000 x 10 (本) +
100 x 100 x 10 (本)] / [10000 x 3(本) + 5000 x 10 (本) + 1000 x 10 (本) +100
x 10 (本)]
=[300000000 + 250000000 + 10000000 + 100000] / 91000
=560100000 / 91000
=6154
最初の場合と比べてポリマーの本数が増えている分Mnが約2/3と大幅に減りましたが、Mwはほとんど変わりません。このときのMw/Mnは2.91です。
このMwがあまり変わらないのは、分子量が10000や5000のポリマーが全体に占める割り合いはほとんど変わらないためです。つまりMwは「全体に対して占める割合を考慮した平均分子量」と考えると良いかもしれません。実際、全体としての性質は、体積の多いものが重視されるので、物性はおもにMwに依存するわけです。
ちなみに最初の例の分子量1000を100に置き換えただけの場合は以下のとおりです。
Mn=[10000 x 3(本) + 5000 x 10 (本) + 100 x 10 (本)] / [3 + 10 + 10 (本)]
=81000 / 23
=3521
また、このときのMwは以下の式で表されます。
Mw=[10000 x 10000 x 3(本) + 5000 x 5000 x 10 (本) + 100 x 100 x 10 (本)] / [10000
x 3(本) + 5000 x 10 (本) + 100 x 10 (本)]
=[300000000 + 250000000 + 100000] / 81000
=550100000 / 81000
=6791
Mnは1本あたりの平均なので、ある部分をより分子量の低い部分に差し替えれば平均は下がります。これに対して、Mwは低分子量の成分が全体として減れば上昇します。
参考
エッセンシャル高分子の13−14ページの抜粋です
高分子中に分子量Miの分子がNi個存在するとすると、数平均分子量は次式で定義される。
これは分子の個数についての平均であり、末端基定量法や浸透圧法などを利用して求められる。数平均分子量は高分子に含まれる低分子化合物の影響を敏感に受ける。これに対して、高分子量化合物の平均分子量への寄与を重視した重量平均分子量Mwは、重量分率による分子量の平均であり、
で与えられる。重量平均分子量Mwは、光散乱法を利用して求められる。
(上記Mwの式に誤記があり、2024.5.1に修正しました)