論文を書くにあたって(3)
このページでは実験データを表記する図と表の書き方について書きます。
実験データを書くときには、多くの場合、表(Table)か図(Figure)が使われます。まずは表の書き方について、例を挙げて示します。
表の書き方
表は、類似の条件で行った実験の結果として、条件の差によってどのような結果が現れたのかを示すものです。従って、条件欄には変化させた条件のみを示し、共通の条件はタイトルか脚注(footnote)のどちらか一方に書きます。
よい例
Table 1. ビールによく合うおつまみの考察(気温35℃)
Run
おつまみ
結果
1
枝豆
O
2
唐揚げ
O
3
チョコレート
X
悪い例
Table 1. お酒によく合うおつまみの考察
Run
お酒
気温
おつまみ
結果
1
ビール
35℃
枝豆
O
2
ビール
35℃
唐揚げ
O
3
ビール
35℃
チョコレート
X
もちろんこの実験例において、ビールと日本酒を試していたり、違う気温で実験をしていたりしたら、下の形式が正しくなります(どちらか一つの条件なら、その条件を入れる。結果については好みの問題ですので、お気になさらず)。
また、上記のような性質から、条件ごとのグループ分けをして、Runナンバーを振りましょう。実際に行った順番と、他の人に説明するときの順番は全く無関係です。Runナンバーの上位には、重要な実験結果を示すのが普通です。参考にな るデータなどは絶対に一番上に持ってきてはいけません(普通は一番下)。とにかく相手の心を掴むために、よいデータを上位に持ってきましょう(一番上である必要はない)。と言っても温度を振ったときとかなら、結果に関わらず温度順にRunナンバーを振ったり、その辺は臨機応変に。
読者の立場になれば、ただでさえ難しい論文が理屈っぽく書かれているよりは、何となくはわかるよう表記してもらったいいですよね?参考データの存在は理屈を述べるときに必要なものですから、これが上位に来る表は必然的に理屈っぽい印象を与えますし、インパクトに欠けます。
図の書き方
図でよくあるのがグラフですので、ここではグラフの書き方について述べます。
まず、以下のグラフは同じ実験データに基づいた直線関係を示していますが、それぞれ直線の引き方によって、厳密には意味が違います。
(A) この直線関係は実験で得たデータ範囲まで適用される。
(B) この直線関係は実験で得たデータ範囲で適用でき、その後ある程度は続くと 予想される。
(C) この直線関係は実験で得たデータ範囲のみならず、一般性を持って適用でき る。
ということで、普通は(B)のようにデータポイントの関係を示す線を引く場合には、実験データの範囲を少し超えたところまで引くのが普通です。 逆に理論値(リビング重合での理論的な分子量など)はグラフの軸にあたっているべきです。
もちろん、横軸の左側で実験値と異なる関係が生じると考えられる場合には、左側を軸に付けてはいけません。
また、データの点の大きさは誤差範囲を示すものですので、ある程度大きく書いた方が正しい表現です。何回か実験をして誤差線を付けるのが本当は一番正しいのですが、高分子合成ではおおむね再現性があることが多く、そこまで行わなくとも通用します。
一般的注意事項
表や図(スキームを含む)はそれぞれが文章を読まなくても独立して理解できるものでなくてはいけません。従って、実験条件の全てを脚注かタイトルに盛り込まなくてはいけません(ちょっと前まではそんなにうるさくなかったのに・・・・)。
例
Table 1. Polymerization of XXX with anionic initiators.a
a Conditions: [XXX] = 1.0 M, [XXX]/[Initiator] = 20.0, THF, -78 ℃, 1 h. b Isolated yield after precipitation with methanol. c Estimated by size exclusion chromatography (THF, polystyrene standard, 40 ℃). d Not determined.
Run
Initiator
Yield (%)b
Mnc
Mw/Mnc
1
n-BuLi
89
3900
1.25
2
n-BuMgBr
97
3500
1.10
3
EtZnBr
< 5
n.d.d
n.d.d
条件を書いた脚注aの代わりに、タイトルの後ろにカッコ書きするのもOKです。条件は、直前にスキームがあってそこに書いてあったとしても、そのスキームとこの表は独立しているので、それぞれ別に書かなくてはいけません。
それから、分子量は多くの場合平均分子量を求めていますので、Mはイタリック(斜体)にしなくてはいけません。また、nとwは下付きです。こう いうところをいい加減にすると論文慣れしていないと判断されることもあるので、不利に働く可能性があります。
リビング重合などで、仕込み比に対する分子量の変化をプロットした図を書きますが、この際には転化率が重要になりますので、タイトルの後ろに (conversion of XXX > 95%). などと書きます。