二酸化炭素を利用する高分子合成

二酸化炭素は空気中に約0.04%存在する。この量は莫大であり、二酸化炭素を炭素資源として活用できれば、石油資源の浪費の低減に有効と期待されている(ただし、化学品の生産量は二酸化炭素排出量を大きく下回るため、二酸化炭素の変換による二酸化炭素の削減効果は非常に限定的)。しかしながら、二酸化炭素は燃焼で生じる生成物であることからも明らかなように、比較的安定な化合物であり、その変換には高温・高圧など多大なエネルギーを要することが多い。この結果として、エネルギーを生成するための二酸化炭素が逆に排出されることにもつながってしまいがちである。
CO2

そこで、二酸化炭素を低エネルギーで変換する反応に着目した。その一つが、二酸化炭素とエポキシドとの反応による五員環カーボナートの合成である。この反応は、1気圧の二酸化炭素雰囲気下で60℃~80℃ないしは常温で数気圧といった比較的穏和な条件下でも良好に進行する。そこで、この反応を機能性高分子材料へと変換するための研究を行っている。


○二官能性五員環カーボナートとジアミンの重付加によるポリヒドロキシウレタンの合成とその応用


五員環カーボナートは1級アミンと高選択的に反応し、水酸基を持つウレタンを生成する(以降ヒドロキシウレタンと記す)。この反応を二官能性の化合物に適用すると側鎖に水酸基を持つポリウレタン(ポリヒドロキシウレタン)が得られる。この重合はイソシアナートを用いないポリウレタン誘導体の合成として知られているが、未だに実用化には至っていない。そこで、本重合の合成プロセスの効率化とポリマーの機能性・反応性の評価を行っている。また、カチオン構造を持つポリヒドロキシウレタンが生体適合性が高く、DNAデリバリー材料として利用可能であることも見出した。
ポリヒドロキシウレタンの合成


○五員環カーボナート構造をもつポリマーの応用

五員環カーボナート構造をもつポリマーに期待される機能
   

低エネルギーでの二酸化炭素利用を目指した二酸化炭素変換をともなうラジカル重合

 1気圧の二酸化炭素をもちいてエポキシのカーボナート化を行うに際して必要な時間は、例えば60-80℃で6時間程度といったところが標準である。これは極端にエネルギーが必要というほどではないが、より低エネルギーで二酸化炭素が利用できれば、エネルギー創出に際して排出される二酸化炭素も削減できる。
 そこで、グリシジルメタクリラートのラジカル重合とともにエポキシ基の二酸化炭素によるカーボナート化を同時に行う反応系を開発した。具体的には、ラジカル開始剤とLiBrなどの二酸化炭素変換用触媒の存在下で、グリシジルメタクリラートのラジカル重合を行うと、二酸化炭素とエポキシの反応によるカーボナート化とラジカル重合が併発し、五員環カーボナート構造をもつポリマーが得られる。この際、ポリマー中の二酸化炭素導入により生じたカーボナート基と未反応のエポキシ基の割合は反応条件によって自由に制御できる。

以下の論文がMacromoleculesのフリーアクセスのVirtual Issueに収録されています
Fixing Carbon Dioxide Concurrently with Radical Polymerization for Utilizing Carbon Dioxide by Low-Energy Cost. Macromolecules 2008, 41, 99379939


これらの研究については以下の総説でも紹介しておりますので、興味をお持ちの方はご覧ください。

1)   CO2を原料とする新しい高分子材料の創製
   落合文吾・永井大介・遠藤剛 未来材料 4 (6), 22-27 (2004)
2)   Carbon Dioxide and Carbon Disulfide as Resources for Functional Polymers.
     Ochiai, B.; Endo, T. Prog. Polym. Sci. 30 (2), 183-215 (2005) Science directへのリンク
3)   二酸化炭素・二硫化炭素を原料とする高分子合成)
     落合文吾 高分子論文集 63 (8), 519-528 (2006)
4) 常温・穏和な条件で! CO2からポリウレタンをつくる
   遠藤剛・落合文吾 化学 63 (7), 34-36 (2008) 記事へのリンク

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