環化重合による大環状構造をもつポリマーの合成

 特定の分子との相互作用が可能であるポリマーは、クロマトグラフィーにおける固定相・抽出材料・触媒などとして有用である。このような相互作用をもつ構造として、環状の構造は規制されたコンフォメーションをもつために有利である。例えば、クラウンエーテル、シクロデキストリン、カリックスカレーンなどが特定の金属イオンや有機分子の捕捉能に基づいて、さまざまに利用されている。
 分子捕捉能をもつ環状構造は、分子を内包できる、もしくは分子に多点結合できる程度の大きさを持たなければいけないが、このような大環状構造を効率よく合成するのは、分子内反応である環化とともに分子間反応が併発するために一般に困難である。そこで、コンフォメーションの規定された二官能モノマーを設計し、閉環反応が優位に進行する重合系の開発と得られたポリマーのもつ分子認識能の解析を行っている。

○11員環構造をもつ光学活性ポリマーの合成

 木の香りのもとである物質の一つのα-ピネンを原料として得られる二官能性アクリルアミドのラジカル重合を行うと、定量的に環化重合(閉環重合)が進行し、11員環構造をもつポリマーが得られる。また、このモノマーのRAFT重合を行うと、比較的分子量分布の狭いポリマーを得ることもでき、さらにRAFT重合により得られたポリマーは開始末端と停止末端を一つずつしか持たないことから、分岐構造がない定量的な環化重合が進行したことが証明された。
 この11員環という一般的に合成が困難な大環状構造が効率よく生成した理由は、モノマーのシクロヘキセン環によるコンフォメーションの規制のために二つのアクリルアミド部位同士が近接しているためである。


(MMFFコンフォーマー計算とHF3-21G*計算によるモノマーの最適化構造)

 また、得られたポリマーは不斉環状構造をもつことから、光学分割における固定相や不斉合成における触媒としての応用が期待される。そこで、芳香族アルデヒドとの相互作用の解析を行ったところ、光学活性でないアルデヒドへの不斉の誘起が確認された。このことから、このポリマーは不斉テンプレートとしての応用が可能であると期待できる。
Nagai, A.; Ochiai, B.; Endo, T. Macromolecules, 2005, 38, 2547-2549
Ochiai, B.; Ito, S.; Endo, T. Polym. J.2010, 42, 138-141


○ウレタン結合の水素結合とシクロヘキサン環によるコンフォメーションの規制を利用した19員環構造をもつポリマーの合成

 環化重合に適したコンフォメーション規制に有効な分子設計としては、上述の環状構造の導入のほかに水素結合による規制が考えられる。そこでこれらを協同的に利用して、さらに大きな環状構造をもつポリマーを合成するためのモノマーを設計した。
 このモノマーの重合は19員環の形成を伴いながら進行する。また、RAFT重合により分子量を制御することも可能である。


Ochiai, B.; Ootani, Y.; Endo, T. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 10832-10833.

ScienceのEditor's Choiceに紹介されました。



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